「何度もトイレに行くのにおしっこが出ない」
「排尿するときに苦しそうな様子が見られる」
「陰部を何度も気にして落ち着かない」
このような様子が見られると、「少し様子を見ても大丈夫だろうか」と迷われる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。
こうした症状の原因のひとつに膀胱結石があります。結石が尿道に詰まると、尿道閉塞を起こし、おしっこがまったく出なくなることがあります。尿道閉塞は放置すると腎臓に大きな負担がかかり、全身状態が急速に悪化するおそれがあるため、早急な対応が必要な緊急疾患です。
今回は、かかりつけの動物病院から紹介を受けたトイ・プードルの膀胱結石・尿道閉塞に対する手術症例をご紹介します。

■目次
1.症例情報とご来院までの経過
2.来院時の状態と検査結果
3.手術の流れ(膀胱切開術)
4.術後の入院管理と退院までの経過
5.膀胱結石は再発することも|今後の管理で大切なこと
6.まとめ
症例情報とご来院までの経過
まずは今回の症例をご紹介します。
・犬種:トイ・プードル
・性別:去勢済みのオス
・年齢:8歳
・体重:約4.3kg
この症例は、以前にも膀胱結石の手術を受けたことがあり、その後も排尿時に小さな結石が出る様子が見られていた再発性の症例でした。
ある日、頻繁に排尿姿勢を取るようになり、陰部をしきりに気にする様子が見られたため、かかりつけの動物病院を受診し、検査で尿道内に複数の結石が確認されたそうです。
尿道閉塞を起こしていたことから、外科手術による治療が可能な動物病院として当院をご紹介いただきました。
来院時の状態と検査結果
来院時には、尿道が結石によって完全に詰まり、おしっこが出せない状態となっていました。
犬では、おしっこが出ない状態が続くと、体内に老廃物やカリウムなどが蓄積し、腎臓や全身へ大きな負担がかかります。状態によっては命に関わる可能性もあるため、まずは閉塞を解除して排尿できる状態に戻すことが最優先となります。
そこで当院では、まず麻酔をかけずに慎重に尿道閉塞の解除を行い、尿道カテーテルを留置して排尿経路を確保しました。これにより全身状態を安定させたうえで、改めて手術の準備へと移りました。
状態が落ち着いた段階で、血液検査、尿検査、レントゲン検査、超音波(エコー)検査を実施しています。
血液検査では全身状態を確認し、尿検査では血液が混じる所見などを評価しました。さらに、レントゲン検査とエコー検査により、尿道内だけでなく膀胱内にも複数の結石が存在していることを確認しています。
尿道内の結石だけを取り除いても、膀胱内に残った結石が再び尿道へ移動すると、尿道閉塞を繰り返す可能性があります。
そのため、この症例では膀胱内の結石まで含めて摘出する必要があると判断しました。
手術の流れ(膀胱切開術)
検査で全身状態が安定したことを確認した後、全身麻酔下で膀胱切開術を実施しました。
今回の症例では、尿道内だけでなく膀胱内にも複数の結石が確認されていました。そのため、尿道と膀胱の両方にある結石を取り除くことで、再び尿道が詰まるリスクをできる限り減らすことを目指しました。
①尿道内の結石を膀胱内へ戻す
まずは、尿道内に詰まっていた結石を慎重に膀胱内へ押し戻しました。
無理に尿道から取り出そうとすると、尿道を傷つける可能性があります。そのため、安全性に配慮しながら、結石を膀胱内へ移動させたうえで摘出する方法を選択しています。
②膀胱切開による結石摘出
次に、お腹を正中切開して膀胱を露出し、膀胱を切開して内部にあった結石を丁寧に摘出しました。
結石が残ると再び症状が表れる可能性があるため、膀胱内を十分に確認しながら、すべての結石を取り除いています。
③縫合・漏れの確認
結石を摘出した後は、膀胱を丁寧に縫合しました。
その後、膀胱内へ生理食塩水を注入し、縫合部から尿漏れがないことを確認しています。
問題がないことを確認したうえで腹壁と皮膚を閉じ、手術を終了しました。
手術時間は約30分でした。
術後の入院管理と退院までの経過
術後は数日間入院し、24時間体制で全身状態を管理しました。
当院で実施している24時間体制のケアについてより詳しく知りたい方はこちら
入院中は点滴や抗生剤、痛み止めを使用しながら、体への負担をできるだけ軽減できるよう治療を進めています。
さらに、排尿の状態や食欲、元気の有無などを毎日確認し、回復の様子を慎重に観察しました。
その後は改善がみられ、自力で安定して排尿できることを確認したうえで退院となりました。
退院後の抜糸時にも大きな異常は認められませんでした。
膀胱結石は再発することも|今後の管理で大切なこと
膀胱結石は、一度摘出したら終わりという病気ではありません。
膀胱結石は再発する場合もあるため、摘出後の管理が重要になります。
今回摘出した結石は成分分析を行い、シュウ酸カルシウムが主体であることを確認しました。
膀胱結石にはいくつか種類があり、再発予防の方法は結石の成分によって異なります。そのため、結石の種類に合わせた食事管理や生活習慣の見直しを行うことが大切です。
また、再発を早い段階で把握するためには、定期的な尿検査や画像検査による経過観察も重要です。
今回の症例でも、退院後はかかりつけの動物病院と連携しながら、定期的な尿検査などで再発の有無を確認していただく方針となりました。
まとめ
犬の膀胱結石は、頻尿や血尿だけでなく、結石が尿道に詰まることで尿道閉塞を引き起こし、おしっこがまったく出なくなる場合があります。
今回の症例では、尿道閉塞を解除した後に膀胱切開術を行い、術後の経過を慎重に観察しました。ただし、これはあくまでも今回の症例であり、治療方法や術後の経過は、結石の種類や病状、全身状態によって異なります。
排尿の異常は、緊急性の高い病気が隠れているサインである場合もあるため、普段からおしっこの回数や量、様子をよく観察しておくことが大切です。
<担当獣医師より>
尿道閉塞は、時間の経過とともに腎臓や全身へ大きな負担がかかるため、できるだけ早い対応が重要です。「何度もトイレに行くのに尿が出ない」「排尿姿勢を取っているのに尿が出ていない」といった場合は、様子を見ずに早めに動物病院にご相談ください。
また、膀胱結石は再発する場合もあるため、結石を摘出した後も、結石の種類に応じた食事管理や定期的な検査を続けることが大切です。
当院では、尿道閉塞などの緊急疾患への対応から手術、術後のフォローまで、それぞれの状態に合わせた診療を行っています。愛犬の排尿の様子で気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
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